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774(ナナヨン) > 祭りのあと
夏祭りのあとって斗貴子さんにはある意味トラウマだったりしないかなあと思って描いてみた。 夏祭りのあとの帰り道は、家に帰るまでつないだ手を絶対離さないとか、そんな無意識のルールが出来てたりしないかなあ… ホントはもう少し悲しい表情にしようとしてたけど、 やっぱり悲しいのはヤだなと思い、明るめの表情にしてみました。 以前描いたことあるような構図になったけどキニシナイorz... ※追記 ちょっと加筆修正しました。 あと、以前サンライトわんこSSいただいた方からこの絵のSSをいただきました。ありがとうございます!! 私が独り占めするのは勿体ないので以下転載させてください。 ------ 寄宿舎近くの神社の夏祭り。 私は、カズキと二人で歩いていた。 あの日と同じ場所を、あの日のように手を繋いで。 はしゃぐカズキは少しだけ早足で、私は裾が乱れないように気をつけながら後を追う。 子供のような笑顔で屋台を覗いて回り、カズキはあれやこれやと興味を示す。 「ねえねえ、斗貴子さん」 ぎゅっ。 カズキの左手と、私の右手。 繋いだ手に力が込められて。 「金魚すくいとワタアメと射的、どっちにする?」 「キミがしたいほうで構わない」 子供のように目を輝かせて。 あぁ、キミは本当に心のままに笑うんだな。 カズキのリクエストどおりに、射的もワタアメも金魚すくいも二人で一緒にやってみた。 人ごみから離れ、社殿前で少しだけ歩調を緩める。 繋いだ右手、空いた左手には金魚の入ったビニール袋。 あの日も、こうやって歩いてた。 二人で。 根っからのお祭り好きなんだろう、カズキは満足げだ。 「楽しかったか?」 「うん!」 頭ひとつ分くらいか、見上げれば私の好きな笑顔。 「斗貴子さんと一緒だしね」 「そうか、それは光栄だな」 アレから一年が過ぎた。 ベンチに腰を下ろし、二人で並んで眼下を眺める。 一年前もこうやって、二人で並んで腰を下ろした場所。 ――君が居ないことを思い知らされた場所。 「カズキ」 「なに? 斗貴子さん」 「…手を、繋いでも良いか?」 びっくりしたように目を丸くして、カズキは赤くなりながら頷く。 改めて願えば気恥ずかしさも増したけれど、私はここで、どうしてもカズキに触れたかった。 大きなてのひら。 私の両手で、カズキの右手を握り締める。 あの時、約束を振りほどいた、絶望と悲しみを私に与えた手。 出会ったときはただの高校生だった。 優しい少年だと思った。 まっすぐ過ぎて目が離せなくて、あくまでもワガママを貫こうとする姿勢に苛立ちもしたけれど、何故か許してしまって。 巻き込んだこと、人ではない存在に変えてしまったこと、許されないはずの行為を笑って許したこと。 私に無いことだらけの心。 「…どうしたの?」 伺うようなカズキの声。 どう言えば、カズキに私の気持ちは伝わるんだろう。 繋いだ手を頬に押し当てる。 悔しさ以外でも涙が出るなんて、キミに会うまで知らなかった。 「傷、増えたな…」 たくさん血を流して、それでも笑って。 この傷だらけの優しい手を失ったとき、私は生きることを辞めた。 心に空いた穴を虚ろに蝕ませたまま。 「カズキ……」 それでもキミを探してた。 「俺はここに居るよ」 左腕で、強く強く抱きしめてくれる。 「ちゃんと斗貴子さんのそばに居るよ」 視界いっぱいにカズキの紺のシャツが写る。 寂しかった。 悲しかった。 キミが居ない。 キミが居ない。 キミが居ない。 約束したのに。 「もう、どこにも行かない」 置いていかれた。 「……泣かないで…」 「泣いてなど…」 「泣いてるよ」 少し困ったような笑い声。 ええい、何だか腹が立ったからカズキのシャツで顔拭いてやる。 カズキの匂いのするシャツは体温もうつしているのか、私より少しだけ、熱い。 ぬくもりが心地よくて、カズキの胸に頭を預ける。 鼓動が聞こえる――。 「斗貴子さん」 耳だけじゃない、身体全てでカズキの声を聞く。 大きな手が私の髪をなでている。 心地よくて、目を閉じた。 いま、カズキはここに居て、私はカズキの腕の中。 「また来年も来ようか」 斗貴子さんは浴衣で、俺も浴衣にチャレンジしてみてさ。 「新しい浴衣、プレゼントするよ」 「約束?」 「うん」 笑ってるカズキ。 左の親指で残った涙を拭われて、すこし気恥ずかしいけど。 「破ったらブチマケるからな」 少しだけ強がりを口にしてみると、カズキの顔色が変わった。 本当にやるわけ無いだろう? 破られたら、倍にして返すだけだ。 待つだけなのは辛いんだぞ。 社殿からゆっくりと来た道を戻る。 見上げれば、月が空高く浮かんでいる。 あの日、私はあの場所まで彼を迎えに行ったのだ。 「ふふ」 なんとなく、おかしくなった。 「なに? どしたの?」 今度は私の左手とカズキの右手を繋いで、人ごみを歩いている。 少し寂しげに聞こえる笛の音と祭り太鼓が夜気に響く。 「また」 赤みの強い明かりに照らされた歩道、まばらに散る影。 「また来年も再来年も、ここを歩けたら嬉しい…。そう思ってな」 「斗貴子さんが望めば、俺はいつだって一緒だよ」 「…そうだな」 約束ももらえたし。 「斗貴子さんの泣き顔も見れたしね」 ッな!? 一気に顔が火照ったのが自分でもわかった。 真っ赤な顔を隠すより早く、カズキが一歩前を歩き出す。 もちろん、手は繋いだままで。 「帰ろっか」 …くそう。 「……あぁ」 「来年、また来ようね」 「…あぁ」 左手に持ったままの、金魚の入った袋がちゃぷん、と音を立てた。 ------ 拍手開いて文章を読んで転げてしまいました。 かわいいよふたりかわいいよ。 いつもは強いけどふとしたところで弱さを見せる斗貴子さんとか 何にも考えてないようでいろんなコトをしっかり受け止めてあげるカズキとか やっぱり私はこのふたりが好きなのを再確認しました。 ありがとうございました。 ※Web拍手より ●今回の文、我がPC内ではファイル名が「てりやき」になってました…。 あれ? おかしいなぁ? 付けた覚えないのに…?? >てりやきワロタ 私もローカル保存している絵のファイル名はかなり適当につけています。「はなげ」とか「もんごる」とか「のりべん」とか「チャランボ」とか。あとで検索しようとするとタイトルがまったく当てにならない諸刃の剣。
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